人生には、つねづね不安で、ときおり歓びがある時間と、
安定しているが退屈でつまらない時間とのいずれかしかないように思われる。
歓びに溢れた安定した時間なるものは存在しない。
この2つの時間は疑いの余地なく二者択一である。
生きる歓びに満ちた時間をもとうと思えば安定はあきらめなければならず、
安定した時間をもとうと思えば、虚しさと退屈をがまんしなければならない。
たとえば、死の不安から逃亡すれば、
ひからびた日常生活しか待っていない理由もここにある。
(岸田秀)「幻想に生きる親子たち」不安の効用について
 
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